薄っぺらりん

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親知らず抜いたよ! (4本/日)

親知らずを4本、1日で抜歯した際の記録。

抜歯前の私が知り得たら有益だったであろうことも書いたため、これから親知らずを抜歯しようと思っている人にも参考になる部分があるかもしれない。

 

目次

 

 

1. 経緯

私には上下左右それぞれ1本ずつ合計4本の親知らずが生えており、向きは幸い全て真っ直ぐだった。上2本は完全に歯茎から露出しているが、下2本は歯茎に半分埋没している。日常生活を送る上で特に支障はなく、歯科検診でも抜歯の話は出たことがなかった。

1月上旬、徐々に左の親知らずが痛み始め、最初はズキズキとした僅かな痛みだったが、3, 4日経過して口が開けられないほどの痛みに発展した。歯が痛いというよりは歯茎、顎が痛いというような具合で、歯茎が赤く腫れていることが目視で確認できた。食事はなんとかできたが、辛い痛みで夜は寝付けず、何にも集中することができなかった。

原因は親知らずの歯茎から細菌が入ったことによる炎症で、通算2度歯医者に通い2週間程度かけて治療を行った。医師から「親知らずが存在する限り同様の事態が今後も起こりうる」と言われ、人生で初めて親知らずの抜歯を決意した。

ここでは抜けないので大きな病院に紹介状を書くと言われ、近所の総合病院か大学病院の選択肢を出された。日程の都合をこちら側でつけられるという理由から総合病院を選択した。


2. 診察

2月上旬、紹介状を持参して総合病院で診察を受けた。

幸い口腔外科の担当医は気さくで会話がしやすく好印象だった。紹介状に何がどこまで記述されているのかは不明でそれをどこまで読んでいるのかも分からないが、まずは抜歯する動機を尋ねられた。炎症を起こして苦しんだ経緯を説明すると、医師は至極真っ当な理由だねと言って抜歯に賛成であることを述べた。次に医師は私の親知らずを含む口腔内の状態を確認し、抜歯に当たる注意事項や複数の施術プランについて流暢に説明してくれた。複数の資料を用いた詳細な説明にもかかわらず非常に分かりやすく、同様の説明を相当な回数行ってきたことが窺えた。親知らずの抜歯にはいくつかリスクがあり、当然それらについても丁寧に説明される。神経に関する痺れ等は一生残る可能性もあるらしく、不安症な私は抜歯当日まで怯えて過ごすことになった。

親知らず抜歯におけるリスクの例

  • 抜歯後の穴に溜まる血の塊がうがい等により取れてしまうと、ドライソケットという骨が露出した状態になり痛みが続く可能性がある。
  • 下の親知らずを抜歯する場合、下顎骨を通っている神経が損傷して下唇に痺れや麻痺等の知覚障害が出現する可能性がある。
  • 上の親知らずは解剖学的に上顎洞という骨の空洞に突き抜けている場合があるため、抜歯により口とその空洞が貫通してしまい二次的に閉鎖する手術が必要になる可能性がある。

医師は1日の入院で4本全ての親知らずを抜歯するプランを推薦した。私はここへ来るまでの事前情報として「シュタゲのオカリンが親知らずを抜くSS」を読んでいたため、4本同時はヤバいことを知っていた。左右で2回に分けて2本ずつ抜歯してほしいと言うと、医師はその理由を尋ね、私は片方ずつであれば抜歯していない側で咀嚼できることをインターネットで知ったからだと答えた。医師はそれを肯定した上で推薦は4本同時の抜歯であると再度言った。インターネットの医療情報は誇張や嘘が多いこと、目の前にいるのはその道のプロであり施術プランやリスクの過不足ない説明振りからも今まで数多の親知らずを抜いてきたであろうこと、それに心の弱い自分では1度目の抜歯がトラウマとなり2度目の抜歯に挑めない可能性があることなどいろいろ勘案し、入院して4本抜歯することを決めた。結果的にその選択は正しかったと思う。

入院して4本の親知らずを抜歯するプランのメリット

  • 抗生剤や痛み止め等の点滴を翌日退院時まで受けられる
  • 抜歯後に不測の事態が発生しても病院なのですぐに対応できる
  • 抜歯後すぐベッドで休める
  • 抜歯後の状態でも食べられる食事が用意される
  • 抜歯後の辛く苦しい1週間が1度で済む

また、これは病院によるとも思うが、抜歯当日に抜歯する本数を減らすことが可能。しかし逆に増やすことはできない。

診察の最後に、レントゲンから親知らずが顎の神経に触れている可能性がある旨を伝えられ、CTを撮ることによりその状態をより明確に捉えることが可能であるがどうするかと聞かれた。CTは安くないが、リスクに怯える自分を少しでも安心させるために撮ることにした。


3. 入院、そして抜歯

4月上旬、入院当日。診察から2カ月程度経っているが、その間には特に何もなかった。ただ恐怖だけがあった。2カ月は長いように思うが、診察日時点で選択可能な最短の日程が2か月後だった。

朝食をとり病院へ行ってPCR検査をして入院手続きを行った後、病室へ案内される。8人部屋で私を含めて6人が入院していた。病室へ着くとすぐに入院着に着替え、点滴のためのチューブと識別バンドが腕に付けられた。すぐにお昼になり、入院して最初の食事が提供された。この普通に美味しい病院食の味をその後1週間のうちに幾度も思い出すことになるとは思いもしなかった。

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食事が終わると抗生剤の点滴が始まり、不安はピークに達した。持参した「最終人類 上」が全く頭に入ってこなかった。そしていよいよ看護師に連れられ口腔外科へ。

医師は他愛ない会話で私の緊張を和らげながら、以前撮ったCTを見せて親知らずと神経が触れてはいないが接近していることを教えてくれた。決断を迫るように4本抜歯することを私に最終確認し、私も意を決してお願いしますと言った。私がひどく緊張していることを察して明るく振舞ってくれるが、「大丈夫」などと一言も言わないところはプロだと思った。椅子が倒れ施術が始まった。

棒状の物が4本、それぞれ親知らずと頬の間に差し込まれる。それは表面から行う麻酔で、唾液に溶け出すため飲み込まないようにと説明される。棒が取り除かれ唾液が吸引されると、下の親知らず部分に鋭く刺さる感覚、同時に激しい痛み、ついにメスによる切開が始まったかと思った。痛みに耐えていると他の箇所にも同様の感覚、激しい痛み、思わず声が漏れる。すると椅子が起こされた。もう一本くらい抜きましたかと尋ねると、医師からはまだ麻酔だけだと返され、注射を刺しただけでこの痛みなら麻酔が効いているとはいえ切開なんてしたら自分はどうなってしまうのか想像できなかった。きっと通常よりも痛がっていたからだろう、医師が点滴による麻酔も追加してくれた。その時点から意識が徐々に遠のいていった記憶がある。再び椅子が倒され、左下の親知らずにものすごい力が加えられて激しい痛みと共に声にならない声で絶叫した。切開の感覚はなく、突然工具的なものでかけられる力のみを感じ、その力の方向も分からず音は自分の絶叫だけが聞こえていた。記憶が定かでないが、想像していたペンチ的なものではなかったように思う。一か所が終わるとすぐ次に取り掛かっていたように思う。次に力を感じたのは右下の親知らずで、これは歯に対してたがねをハンマーで打ち付けるような感覚だった。瞬間的な激しい痛みが複数回あり、絶叫した。縫合と上の2本を抜いた記憶は無い。経過した時間も分からないが、体感としては数分程度だったように思う。施術が完了し椅子が起こされたときには意識が非常に朦朧としており、車椅子に移されたことと廊下のリノリウムの反射光のみが記憶に残っている。

看護師の呼びかけで目が覚めた。いつの間にかベッドで寝ていて、酔っぱらって帰った次の朝みたいな感覚だった。親知らず付近は麻酔が効いている感覚だけで痛みはなかった。点滴を換えた看護師が抜歯した親知らずを渡してくれた。片側が透明なフィルムになっている紙袋には血の付いた歯が5つ入っており、その大きさに感嘆するとともになぜか誇らしい気持ちになった。最も大きいのは左下の親知らずで、親指の爪ほどもある。これが右下のそれでないことは、2つに割れた同じくらい大きな歯と施術時のたがねのような痛みから想像できた。あの打ち付ける痛みは歯を割っていたときのものだったのだろう。

感慨に浸っていると夕食の時間になった。ここから抜糸までの1週間、ドライソケットに怯えて親知らず跡地の血に常に気を配る生活が始まる。

抜糸当日の夕食(左)と翌朝の朝食(右)

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病院食はよく出来ていて、咀嚼できない自分でもおいしく食べられるもので構成されていた。特に美味しかったのは朝食(写真右)で提供された魚の形をした食べ物で、非常に柔らかい魚肉の練り物。 ちゃんと魚の味がして感動した。

歯磨きは歯磨き粉を使用せず、うがいも軽く済ませるようにと言われていたので、磨けていない不快感は残ったが、それよりもドライソケットへの恐怖が勝った。

消灯は9時、施術後ずっと眠っていたせいかなかなか眠れなかった。同室の誰かのイヤホンから漏れているような聞き取れない野球中継だけがずっと響いていた。なぜか少し安心する雰囲気だった。夜中1時頃、麻酔が切れたのか痛みで目が覚めた。トイレのついでに痛み止めをもらい、再び眠った。

翌朝再び痛み止めの点滴を受け、医師の診察を経て退院となった。


4. 退院後の生活

金曜日に入院したので、土曜日の昼には帰宅した。抜糸は次の土曜日に予定されており、湯舟に浸かるのは4日後程度から、歯磨き粉の使用もその程度から、過度な運動は避けるよう指示を受けた。薬は痛み止めを含めて4種類が処方された。顔の腫れは3, 4日後にピークが来るだろうとのことだった。血圧の上昇から血餅が取れてしまうことを懸念し、湯舟は念のため抜糸まで我慢しようと決めた。

痛みは常にあり、固形物は食べることができないため、お粥やゼリーが主食となった。1日3食毎回お粥を食べると3回目にはもう飽きてくるので、炒めたケチャップをかけたり卵をかけたりして変化をつけた。特にお粥に合わせておいしかったのは海苔の佃煮と、かつおでんぶ。ゼリーは食物繊維が取れるタイプのものとカロリーが取れるタイプのものを重宝した。痛み止めはお腹が緩くなるため、食物繊維が取れると少し安心できる。苺やバナナを牛乳とミキサーにかけた飲み物もおいしかった。

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最初の2日間は土日で休みということもあり、ずっとベッドで横になっていた。本を読んだりもしたが、痛みで集中できず、少しイライラしてしまうためyoutubeで雑談配信を聞きながらずっと寝ていた。夜になると痛みがひどくなるため痛み止めを飲んだ。抜歯当日ほどではないため、睡眠に支障を来すような痛みではない。摂取カロリーが少ないせいか気温がただ低いせいか分からないが、ずっと寒気があり就寝時も暖房をつけていた。

抜歯から3日目、月曜日なので普通に仕事が始まってしまう。痛みは徐々に引いているものの、依然として口は痛みであまり開かず、咀嚼する度に痛むため固いものは食べられない。やや顔が腫れてきた。幸い私は家で働いているので、お昼休みは薬を飲んだ後ベッドで休むことができた。ミーティングの時だけボソボソと喋っていたが、乗ってくるとあれやこれやと話すことが出てくるため結局沢山しゃべってしまった。顎の疲れと痛みが後から押し寄せ、後悔と苛立ちが生じた。早く治したいので仕事以外は寝る生活にした。

抜歯から5日目、夜精神安定のためにマリカーをしていたら舌の上にコロコロしたものが現れ、まさかと思いティッシュに出してみると案の定ブヨブヨした血の塊だった。これは取れてはいけないものなのではないだろうか、もうドライソケットで痛みの延長戦が確定だろうか、不安は加速した。その夜はチョコレートや唐揚げの夢を見た。人生で初めて食事をする夢を見て、今まで自分は食に淡泊だと思っていただけに驚いた。自分の新しい面を知るのはいつも唐突だ。

抜歯から6日目、朝の時点で抜歯による恒常的な痛みはなくなっていた。顔の腫れも落ち着いてきており、痛みとしては顎を動かした際の抜歯付近の痛みと、なぜかわからない下犬歯の歯茎付近の鈍痛のみとなった。

抜歯から7日目、物が食べられないことや、食事の際の痛みが治らないこと、お風呂に入れないこと、仕事の鬱憤などからイライラがピークに達し、怒りに任せて生姜焼きを口に頬張るも縫合箇所付近の激痛から泣く泣く吐きだし、悲しみのまま痛み止めと精神安定剤睡眠薬(別件で飲んでる)を服用して寝落ちした。


5. 抜糸

4月中旬、抜歯から1週間後の抜糸当日。

寝落ちしてしまい目覚ましをかけられなかったためやや寝坊したが、予約の5分前程度に口腔外科に到着。外は雨がひどく降っており不穏さが演出されていた。

医師はいつもの調子でここ1週間の様子を尋ねてきた。辛かった、何が辛かった、食べられないことが辛かった、咀嚼すると奥歯で痛みが走る。医師が口内を確認すると、どうやら縫合糸を奥歯が噛んでいる他、腫れていた頬も噛んでしまっていたことが原因らしく、抜糸をすると幾分良くなるのではなかろうかとのことだった。抜歯時ほどではない抜糸の施術確認が行われ、私がお願いしますと言うと椅子が倒れた。抜糸はすぐに終わった。痛かったが、これまでの親知らず抜歯の過程で最も痛くない痛みだった。情けない声も出していない。単純にその程度の痛みだっただけか、あるいは私がこの壮絶な抜歯施術を乗り越えてレベルアップした結果なのかもしれない。抜糸が終わるとアルコールで口を濯ぐよう言われ、奥歯まで濯いでもいいか確認すると許可されたため、うれしくなって奥歯まできっちり濯いだ。親知らず跡地の穴が水の流れを変化させ、新鮮な感覚を楽しく感じた。また違和感や恒常的な痛みも改善された。医師からドライソケットにもなっておらず何も問題がないことを告げられ、もう普通に生活してもよいと言われた。お風呂も、大丈夫、運動も、大丈夫、うがいも、大丈夫。暴れたって大丈夫だよと言われた。状態を確認するための次の検診は一か月後に決まった。

病院を出て、 まだ土砂降りだったけど、すごくいい気分だった。

ハンバーガーを買って帰った。

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ポテトってこんなに美味しかったんだ。


6. まとめ

今回の経験に基づいた個人的な結論です。

  • もうこんな苦しみは味わいたくないので1回で4本抜歯してよかった
  • CTは安心できるから撮っておいてよかった
  • 点滴や病院食の点から入院してよかった
  • お粥には海苔の佃煮やかつおでんぶが合う
  • ゼリーは食物繊維が入ってるとよい
  • 抜歯から抜糸までは非常につらい
  • もしあなたが親知らずを抜歯するのであれば、心身ともに余裕のある時期に1週間程度の余暇をとって行うとよいかもしれません